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大津地方裁判所 昭和50年(わ)13号 判決

主文

被告人を懲役三年六月に処する。

未決勾留日数中一六〇日を右刑に算入する。

押収してある小切手各一通(昭和五〇年押第二四号符号一、同号四ないし一六、同号二〇、二一)の各偽造部分をいずれも没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、清田和喜夫とそのつど共謀のうえ遊興費などに当てるため物品購入名下にテレビなどを騙取しようと企て代金支払いの意思及び能力がなく、入手後は直ちに換金して遊興費などに当てる意図であるのにこれを秘し、

一、昭和四九年一一月一三日ころ滋賀県蒲生郡安土町大字内野一五四番地田口電気工業所こと田口伊三郎方において同人に対し被告人において「テレビとカセツトテープレコーダーはローンにしてくれ、頭金は明日支払う」と虚構の事実を申し向けて右田口をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において同人からカラーテレビなど四点(時価合計一七四、六〇〇円相当)の、翌一四日ころ同県近江八幡市末広町六二七番地の右清田方において右田口からテレビ台一個(時価五、〇〇〇円相当)の各交付を受けてこれを騙取した

二、同月一四日ころ右田口方において同人に対し右清田において「愛知川の友達に頼まれたのでテレビを分けてくれんか。これから持つて行つてすぐ金を貰つてくるから売つてくれ」と虚構の事実を申し向けて同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において同人からカラーテレビ一台(時価一〇五、〇〇〇円相当)の交付を受けてこれを騙取した

三、同月二〇日ころ同県近江八幡市御所内町一二八番地服部商事こと服部忠雄方において同人に対し被告人において「名古屋から引越して来たが家庭用品を揃えたいので売つてくれ。代金は一一月末と一二月末に五万円ずつ支払う」旨、右清田において「わし宛に請求書を持つて来てくれ。わしが責任を持つて払う」旨それぞれ虚構の事実を申し向けて右服部をしてその旨誤信せしめ、よつて即時同所において同人からガスレンジなど八点(時価合計一〇万円相当)の交付を受けてこれを騙取した

第二、同年一二月九日ころ清田和喜夫と共謀のうえ、同県八日市市布施町六五四番地の六西沢自動車工業株式会社事務所において同会社代表者西沢文男管理にかかる同社所有の現金約九万円、小切手帳一冊ほか二五点在中の手提金庫一個(時価五、〇〇〇円相当)を窃取した

第三、右窃取にかかる小切手帳を利用して小切手を偽造し、金品を騙取しようと企て、

一、同月一〇日ころ同県近江八幡市魚屋町元三二番地みづの写真機店八幡店において行使の目的をもつてほしいままに小切手用紙一枚(小切手番号CF〇七八六六)の金額欄にゴム印で「¥100,000」と押捺し、振出人欄にゴム印及び万年筆で「滋賀県近江八幡市1122月分株式会社八日市支店代表者西沢一男」と記入し、その名下に「西沢」と刻した印鑑を冒捺し、振出日欄に日付印で「49,12,12」と押捺し更に右小切手用紙の左上部に「銀行渡り」と刻したゴム印を押捺し、もつて西沢一男振出名義の額面一〇〇、〇〇〇円の小切手一通の偽造を遂げ、同月一二日ころ大阪府門真市常盤町八番三号村田時計店こと村田省三方において、同人に対し「この小切手で時計を売つてくれ」などと申し向け、右偽造にかかる小切手一通を真正に成立したもののように装い交付して行使し、同人をしてその旨誤信せしめ、よつて即時同所において同人から売買名下に腕時計一個及びライター二個(時価合計一〇二、〇〇〇円相当)、釣銭名下に現金一三、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取した

二、昭和五〇年一月一五日ころ滋賀県近江八幡市魚屋町元三二番地みづの写真機店八幡店などにおいて行使の目的をもつてほしいままに小切手用紙一枚(小切手番号CF〇七八八八)の金額欄振出日欄にそれぞれゴム印で「¥162,000※」「50,1,18」と各押捺し、振出日欄に万年筆で「滋賀県近江八幡市魚屋町36高木貴誠」と冒捺し、更に右小切手用紙の左上部に「銀行渡り」のゴム印を押捺し、もつて右高木貴誠振出名義の額面一六二、〇〇〇円の小切手一通の偽造を遂げ、同日ころ大津市本堅田町三八一番地津田時計店こと津田幸雄方において、同人に対し「この小切手で指環と時計を売つてくれ」と申し向け、右偽造にかかる小切手一通を真正に成立したもののように装つて交付して行使し、同人をしてその旨誤信せしめ、よつて即時同所において同人から売買名下にダイヤモンド指環、腕時計各一個(時価合計二一三、〇〇〇円相当)の交付を受けてこれを騙取した

第四、清田清一と共謀のうえ、かねて不正に入手していた近江八幡信用金庫の発行にかかる小切手用紙を利用し、藤田満夫振出名義の小切手を偽造しようと企て、昭和五〇年一月一七日ころ、近江八幡市魚屋町元三二番地みづの写真機店八幡店において、行使の目的をもつてほしいままに右小切手用紙一枚(小切手番号AA一七三四六七)の金額欄にチエツクライターで「¥185,000※」と記入し、振出人欄に「近江八幡市魚屋町元32みづのチエーンみづの写真機店」「代表者」「藤田満夫」と各刻したゴム印を押捺し、その名下に「藤田」と刻した印鑑を冒捺し、更に右小切手用紙の右上部に「銀行渡り」と刻したゴム印を押捺し、もつて右藤田満夫振出名義の額面一八五、〇〇〇円の小切手一通の偽造を遂げたほか右日時、場所において、前同様の方法により、別紙一覧表記載のとおり右藤田満夫振出名義の小切手合計一三通の偽造を遂げ、同月二〇日ころ、京都市東山区山科御陵上御廟野町一〇ブラザー古美術店において、吉野徳光に対し「この小切手で刀を売つてくれ」と申し向け、右偽造にかかる額面四五〇、〇〇〇円の小切手(小切手番号AA一七三四八五)一通を真正に成立したもののように装い交付行使し、同人をしてその旨誤信せしめ、よつて即時同所において、同人から売買名下に脇差及び短刀各一振(時価合計四二〇、〇〇〇円相当)の交付を受けてこれを騙取し、同月二〇日ころ同県守山市吉身町四六一番地時計商宮川清助方店舗において、同人に対し「この小切手で腕時計、ガスライターを売つてもらいたい。」などと申し向け、右偽造にかかる小切手を真正に成立したもののように装い提出行使し、同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所で同人から前記偽造の小切手一通と引換えた男物腕時計二個、ガスライター一個(時価合計一五万二、八〇〇円相当)を交付させて、これを騙取し、同月二一日ころ、長浜市元浜町二番一一号イソザキ時計店こと磯崎勇次方において、右磯崎に対し「指環を売つてくれ。これで払う」と申し向け、右偽造にかかる額面八八六、〇〇〇円の小切手(小切手番号AA一七三四七一)一通を真正に成立したもののように装つて交付行使し、同人をしてその旨誤信せしめ、よつて即時同所において同人から売買名下にダイヤモンド製指環二個(時価合計五六七、〇〇〇円相当)の交付を受けてこれを騙取し、同年二月二日ころ、滋賀県神崎郡能登川町垣見四八番地イクミ時計店こと大家郁朗方において、「腕時計を売つてくれ。これで払う」などと申し向け、右偽造にかかる額面一〇〇、〇〇〇円の小切手(小切手番号AA一七三四七七)及び額面二〇〇、〇〇〇円の小切手(小切手番号AA一七三四七五)各一通をいずれも真正に成立したもののように装つて交付行使し、同人をしてその旨誤信せしめ、よつて即時同所において、同人から売買名下に腕時計及びダイヤモンド製指環各一個(時価合計三七〇、〇〇〇円相当)、釣銭名下に現金五、〇〇〇円の各交付を受けてこれを騙取し、同月三日ころ、名古屋市中村区若宮町三の八ホテル「コロナ」において、渡辺ふさに対し返済の意思がないのにあるように装い「金を二〇、〇〇〇円貸してくれ。今晩返すので、それまでこの小切手を預けておく」と虚構の事実を申し向け、右偽造にかかる額面三〇〇、〇〇〇円の小切手(小切手番号AA一七三四八〇)一通を真正に成立したもののように装つて交付行使し、同人をしてその旨誤信せしめ、よつて即時同所において、同人から寸借名下に現金一五、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取した

第五、昭和五〇年七月一二日丸山文一が空健二から覚せい剤を譲り受けるに際し、同日同人方へ覚せい剤を譲り渡してもらいたい旨電話し、さらに右丸山を右空方へ案内するなどし、もつて同日京都市東山区団栗通り宮川筋路上に駐車中の普通乗用自動車内において右丸山が右空から覚せい剤二七グラムを譲り受けたことの周旋をした

第六、法定の除外事由がないのに

一、同月一三日滋賀県彦根市松原町一四三四番地旅館松原荘において丸山文一からフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤粉末約一グラムを譲り受けた

二、同日同町網代口一四三五番地の九一近江プラザホテルアネツクスにおいて丸山文一からフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤粉末約二・五グラムを譲り受けた

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

一、罰条

1、判示第一の各所為につき   刑法六〇条、二四六条一項

2、判示第二の所為につき    同法六〇条、二三五条

3、判示第三の各所為につき   同法一六二条一項、一六三条一項、二四六条一項

4、判示第四の所為につき    同法六〇条、一六二条一項、一六三条一項、二四六条一項

5、判示第五の所為につき    覚せい剤取締法四一条の八、一七条三項

6、判示第六の各所為につき   同法四一条の二の一項二号、一七条三項

二、科刑上一罪の処理

1、判示第三の一、二の各有価証券偽造とその各行使と各詐欺との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので刑法五四条一項後段、一〇条により結局以上を一罪として最も重い各行使罪で処断することとする。

2、判示第四の各有価証券偽造は包括一罪であり、各偽造とその各行使と詐欺との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので同法五四条一項後段、一〇条により結局以上を一罪として最も重い磯崎勇次に対する偽造有価証券行使罪の刑で処断することとする。

三、併合罪の処理

同法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い右行使罪の刑に法定の加重をする)

四、未決勾留日数の算入  同法二一条

五、没収  同法一九条一項一号、二項(昭和五〇年押第二四号符号一、同号四ないし一六、同号二〇、二一の各偽造部分)

よつて、主文のとおり判決する。

(別紙)

一覧表

〈省略〉

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